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〈そこの船、停船せよ!〉

 みなさん、「Pirates of Caribbean」という映画をご覧になりましたか?ジョニー・デップ扮する海賊ジャック・スパロウ船長がたいへんカッコイイですね。松本零士氏の『宇 宙海賊キャプテン・ハーロック』などもそうですが、海賊といえば、髑髏の旗をはためかせ、何ものにも囚われず、己の信念のもと自由に生きる、そんな爽快な 海の男たちのイメージがありますが、もちろん現実の海賊はそんなものではありません。“海賊”といえばはるか昔の帆船の時代の存在のような気がしますが、 何と現在でも存在しております。東南アジアの海域で襲われる船は跡を絶ちません。

ところで、私掠船ないしは私拿捕船というのをご存知でしょうか。高校ぐらいの世界史の授業で、16世紀のイギリスとスペインの覇権争いの頃に出てきます。 ちょうど無敵艦隊のあたりですね。私掠船とは、国家の許可を受けて相手国の商船を襲う船のことで、要するに国家公認の海賊船です。イギリス側の私掠船の船 長で有名なのがドレーク船長です。この海賊集団がいつのまにか世界に冠たる“Royal Navy”に変わっていくのですが、まあイギリスだけでなく、この時代はどこの国の商船でも海賊船と紙一重ですね。

そしてこの“私掠船”なんですが、これもまたはるか昔の大航海時代の代物のような印象なのですが、意外にも第二次世界大戦の頃まで使われていたのです。こ の頃になるとさすがにこれを「私掠船」とは呼ばず「仮装巡洋艦」と呼びます。大砲を積み込んだ比較的大型で速力が速い貨物船で、正規の海軍軍人が乗り組ん でいるところがかつての私掠船と異なります。口径が15cmぐらいの大砲を6~8門搭載し、船の大きさがだいたい当時の巡洋艦程度なので、“仮装巡洋艦” と言いますが、大砲を隠せば、見た目は完全に貨物船です。商船を装って単独で行動し、敵国の商船を発見すると近づいていっていきなり大砲を打ち込んで停船 させ、めぼしい積荷や燃料を奪い、乗員・乗客を収容したのち撃沈します。もし補給船として使用できそうであれば、操縦用の人員を送り込み、燃料・食料の補 給に使い、要が済めば撃沈します。この際抵抗しなければ、ふつうは乗員・乗客が殺されることはありませんが、やっていることは完全に海賊ですね。殺されは しないといっても、最初の一撃から当たることもありますし、ちょっとでも逃走を企てたり救援の無線を発信したりすると撃たれるので、犠牲者がゼロというこ とはありません。一般商船を襲って敵国の経済に打撃を与えることを、近代では『通商破壊』といいます。

第一次・第二次世界大戦でこの近代的海賊船である“仮装巡洋艦”を大々的に運用し、大きな戦果を収めたのはドイツです。写真を見ると、そう思って見るから か明らかに一般商船ではない怪しげな雰囲気をかもし出している船がありますが、中には日本の大阪商船の貨物船に化けた船もあります。イギリスも仮装巡洋艦 は運用したのですが、海賊行為よりも不足する護衛艦を補って船団護衛にあたることが多く、ドイツの巡洋戦艦が襲撃してきた際には、他の一般商船を逃がすた めに単騎で戦いを挑み、壮絶な最期を遂げるということがありました。この出来事のため、ドイツの仮装巡洋艦が暗いイメージなのに対し、イギリスの場合は海 軍軍人の犠牲的精神を表すものとして、英雄的な扱いを受けています。日本も太平洋戦争で貨物船改造の仮装巡洋艦(特設巡洋艦)を運用し、オーストラリア近 くの東太平洋やインド洋で通商破壊戦を行ったのですが、ドイツのように大戦果を挙げることはなく、ある船は襲った相手の船が大砲を持っていたために返り討 ちにあい、逆に沈められてしまったのです。