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〈金属地名あれこれ〉

 高野山に行かれたことはありますか。空海(弘法大師)が創めた真言宗(密教)の総本山、金剛峰寺がありますが、この高野山に水銀の鉱脈があることをご存 知でしょうか。水銀は硫黄と化合した硫化水銀(辰砂)の形で存在する場合が多く、この辰砂は朱色の顔料である「丹(たん)」となります。そのため、ここで 採れる水銀(辰砂)は、昔の高野山における真言宗信徒の活動資金になったのではないか、という説があります。その上、空海自身、単なる「お坊さん」ではな かったようで、各地で土木工事に携わっていた伝承が残っており、かなり高度で専門的な知識を持った技術者でもあったと考えられています。
 空海(弘法大師)がため池を造ったとか、堤を修理したとかいう伝承はあちこちに伝わっており、香川県の満濃池が有名ですね。杖で地面を突いたら水が湧き 出してきたとかいう話も多々あり、鉱物資源や地下水の流れを見立てる特殊技術を持っていたようです。この当時のお坊さんは、技術者を兼ねる場合が多いよう です。

高野山だけでなく、山岳寺院が存在したり、神社が祀ってある山には、金属との関わりがある場合が多いです。これは、古代から続く山岳信仰と、9世紀に入っ てきた密教系仏教が融合したためらしく、山名も密教に関する名前が付いているものがあります。密教を奉じる修験者たちが修行のため、もしくは鉱物資源を求 めて各地の山を歩いたため、開山、鉱山の開坑、寺社の創建が9世紀初め、正確には空海が密教を大陸から持ち帰った大同年間(806~809年)とされてい る場合が多く見られます。

[金属に関する山名]
○虚空蔵山(こくぞうさん):
金属の神様である虚空象尊を祀る山。高い山でこの名前が付いていたら、ほぼ間違いなく、近くに鉄や銅の鉱山跡があるはずです。

○金峰山(きんぷさん):
金属精錬の神様である金山彦、金山姫を祀り、修験道の聖地である奈良県の大峰山系がもとらしいです。「金」は、金属を表します。

○妙見山(みょうけんやま):
妙見とは「北極星」のことで、これも金属の神様。兵庫県多可郡中町の妙見山付近は、全国でも有数の銅鉱床が存在していました。

○金 山(かなやま):
金を採掘する金山(きんざん)の場合もありますが、鉄、銅、銀なども表します。

○”タタラ”が付く名前:
「タタラ」は金属を熔かす熔鉱炉の古い言い方で、この名前が付けば間違いなく周囲に鉱山跡があります。「もののけ姫」で「タタラ場」が出てきましたよね。あれです。

 現在私たちは、山を単に「山」としか見ませんが、昔の人々にとってはかなり特別な存在で、時には畏れ多く、容易に足を踏み入れることができない場 所だったのです。そこを人知れず黙々と歩き、修行をしつつ鉱物資源や地下水の流れを探る修験者兼技術者が存在したことは間違いなく、彼らの足跡は、数百年 から千年以上の時を経て、地名や伝承となって残っています。学校では習わないかもしれませんが、このへんのこと、おもしろくありませんか?

(参考文献:『山の名前で読み解く日本史』 谷 有二著 青春出版社)