「目で見てわかる歌ことばの姿」
今回は、古典(和歌)とコンピュータを結んで古の世界を垣間見る話題です。
和歌は千年以上も前より日本に存在する伝統的な文芸です。この和歌に
使われることばを「歌ことば」と言いますが、今回のサイエンスカフェでは、
コンピュータを使って、歌ことばのネットワーク図(単語を網の目状に並べ
つないだ図形)を作り、和歌にはどのようなメッセージが示されているのか、
目で見てわかる仕組みについてお話しをしていただきます。
2007年度最後のサイエンスカフェは,光あふれる平日午後.
花と緑と鳥(!)に囲まれて,神戸花鳥園での開催となりました.写真をご覧下さい,もう,素晴らしいとしか言いようのない,花,花,花…..花鳥園のスタッフのみなさまが,毎日愛情を込めて育てておられる花の中で,お茶を片手にゆったりとした気分で始まりました.
本日のゲストは山元啓史さん.歌ことば(和歌の言葉)の使われ方を,コンピュータを用いて客観的に解析し,グラフ理論からその潜在的な意味(コノテーション※)を引き出すことで時代の風景を捉えようとされている研究者です.従来の人文学的研究手法において,歌ことばの意味するところは,研究者(受け手)の印象に依存しかねないのが現状.それに対し,山元さんは「客観的に捉える」事によって,新しく普遍的な見方を引き出しておられます.
話題は「鶯」と「時鳥(ホトトギス)」を例題として始まりました(まさに花鳥園らしい話題提供です!).古今集において,和歌(原文)と現代語訳のテキストの中に,それぞれ,この言葉が他の語とどんなパターンでどのくらい使われているかを調べます.この,和歌(原文)での使われ方(パターン)と現代語訳での使われ方(パターン)の論理積というのは,辞書に書いてある「よくある使い方・意味」になりますから,それ以外のパターンに注目し,言葉のネットワーク図を作ります.
今回のカフェでは,このネットワーク図をみんなで眺めながらの議論となりました.違いは一目瞭然!同じような小型の鳥でも「鳴く」「声」といったよくある言葉以外に,「鶯」には「花」「梅」,「時鳥」には「山」「音羽」といった言葉とつながりがあることが浮き彫りになるのです.ちなみに「鶯」-「梅」とは,「梅の枝を折ることで,その香りが袖につき,そこに鶯が入ってくる」という,普段専門家が光をあてない関係性なのだとか.「客観性」を前に出すことで,こういった関係もきちんと現れるのですね...
「科学は文化にかわるものではないけれど,科学を使うことで,こうやって文化に広がりを足すことができるのです」という山元さんの言葉が大変印象的でした.
「言葉」の世界に 「解析のための“数式”」が入ってきて,参加者のみなさんは最初戸惑い気味でしたが,山元さんの丁寧な説明と(何度も同じ質問が出ても,言葉を変えて,本当に丁寧に説明してくださいました)やわらかい語り口に,歌ことばの世界を堪能したカフェとなりました.
※ 「コノテーション」: 「タコ(蛸)」という言葉ひとつでも,蛸そのものを意味するだけでなく,ある人は蛸から「やわらかさ」を連想し,別のある人は「気持ち悪さ」を連想し,別のある人は「タコ焼き」を連想するかもしれない..このように,言語記号の潜在的な意味―は文化によって違う場合があり,それゆえ,コノテーションを知ることは,文化を調べるのに重要になってきます(山元さん談).
(文責:橋口典子)