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「タンパク質のコンピューターシミュレーションと医療への応用」

ゲスト: 竹松 和友 さん (神戸大学大学院人間発達環境学研究科)
日時: 2009年11月21日(土) 14:00~16:00
会場:  UCCカフェ コンフォート 神戸市庁舎店
開催案内文の記録

ポスター(548KB, PDF)

生体内に無数に存在するタンパク質の物性を解明することは、新薬の開発や テーラーメイド医療の実現に役立つと期待されています。タンパクの性質や タンパク質同士の相互作用は、タンパク質を構成する原子核の周りにある電子の 振る舞いによって決定されます。しかし、実験的に電子の状態を測定することは 困難であるため、物理学の基本法則(シュレディンガー方程式やニュートン 方程式)を元にコンピュータで計算する試みがなされるようになりました。 けれども、電子の状態を計算することは最新のコンピュータの力をもってしても 大変困難なことです。とりわけタンパク質は非常に多数の原子によって構成され ているため、計算負荷が大きいことが知られています。私たちのグループでは この問題を克服すべく、計算プログラムの開発と大型コンピュータでの計算に 取り組んでいます。当日は将来の医療応用が期待されるいくつかのタンパク質の 計算結果やその解析についてお話ししたいと思います。

当日の様子

 今回のカフェでは、神戸大学大学院人間発達環境学研究科・竹松和友さんをゲストにお招きしました。 ゲストと参加者の皆さんの間で活発に意見交換が行われる場面が多々あり、時間があっという間に過ぎてしまい、とても有意義で楽しい時間でした。

 今回のお話は、まずタンパク質の構造・大きさなどの基本的なことの紹介から始まりました。ヒトの大きさ、細胞の大きさ、ウイルスの大きさ…とスライドショーで徐々に小さい世界へと進みます。タンパク質の大きさ(1mの100億分の1)までやっとたどり着いた時の参加者の方々の反応は、まさに「あまりの小ささに驚いた」といった様子で、皆さん、これから始まるミクロな世界へ導かれました。

 次に、竹松さんが研究をなさっているタンパク質のコンピューターシミュレーションのお話に入りました。タンパク質には「鍵穴」があり、そこに適切な「鍵」となる物質が作用することで、そのタンパク質の働きが発現したり、あるいは停止したりしています。そこで、その鍵を人工的に作り、タンパク質の働きを制御しようというのが薬の役割です。現在の薬の開発方法は、何万とある薬の候補物質を、地道に実験によって効果を確かめていくため、多大な時間・コストがかかるというのが問題です。竹松さんの所属するグループでは、実験的に決定されたタンパク質の分子構造と、物理化学の基本法則(シュレディンガー方程式やニュートン方程式)から、計算によって短時間かつ高精度に「鍵」と「鍵穴」の結合エネルギーを求めることを目指しています。これにより薬として機能しそうな物質を絞り込んでから開発ができるため、時間とコストを最小限に抑えることが期待されます。

 しかし、こうした研究に必要なスーパーコンピューターに大きな問題が持ち上がっています。 それが、11月11日からの行政刷新会議事業仕分けによる神戸市の最先端スーパーコンピューター開発の予算凍結です。

 このことについて、
「機械のハード面が停止することで、人材育成などのソフト面が停止してしまうことのほうが心配」
「純日本製にこだわらないのであれば、海外部品も利用してコスト削減を」
「スーパーコンピューターが何に有用なのか・需要はあるのかを、もっと分かりやすく一般に伝える必要がある」
「日本は資源がない分、ソフト面で世界に勝負するべきだ」
など、参加者の間で活発に意見交換が行われました。 この意見交換によって、参加者全員が他者の様々な考えを知ることができたと思います。

 最後は少しタンパク質とは違う話題でしたが、始終全員が議論の場にいると実感させてくれる、サイエンスカフェの意義を充分に感じることのできた1日でした。

(文・石橋杏奈)