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「雌と雄はどうやって決まる?〜 生物種ごとの多様な性決定戦略 〜」

ゲスト:井上 邦夫 さん (神戸大学大学院理学研究科)
場所:Paris Cafe (パリス・カフェ) 
開催日:2009年3月14日
開催案内文の記録
異性の存在はいつの時代でも大きな関心事です。
生物学においては、雌と雄はどこが違うのか、どうして雌雄が存在するのか、
雌になるか雄になるのかどうやって決まるのかなど、多くの問題が研究され
てきました。今回は、雌雄を決める性決定のメカニズムについて、生物種ご
との多様な戦略を見ていきます。

ポスター(600KB, PDF)

当日の様子

 今回は西宮のお洒落なカフェで、神戸大学大学院理学研究科の井上邦夫さんをゲストにお迎えしました。井上さんは性決定に関わる遺伝子の働きを研究されており、その成果の一部は学術雑誌 ScienceやNatureにも掲載されています。三毛猫の話から始まり、人間、ショウジョウバエ、さらにはヘビやメダカにいたるまでさまざまな生物の性決定の仕組みをご紹介いただきました。

 三毛猫の雄はいないという事はご存知の方も多いと思います。では、それはどうしてなのでしょうか?

 生物には常染色体と性染色体があり、ヒトであれば常染色体が44本、性染色体が2本あります。性染色体は、その形からX染色体、Y染色体とよばれています。女性はXX、男性はXYの組み合わせを持っています。これまでの哺乳類の研究では、Y染色体上のSry遺伝子が、雄になるための最初の命令を出すことがわかっているそうです。なんと、Sry遺伝子をXXの組み合わせをもったマウス(本来は雌)で強制的に働かせると、そのマウスは雄になってしまうそうです!
 一方、遺伝子研究でよく用いられるショウジョウバエも、ヒトと同じく雌はXX染色体、雄はXY染色体を持っています。しかしヒトと違ってY染色体は性決定に関与せず、X染色体の数によって性が決定されるそうです。たとえばX染色体が1本あれば雄、2本3本あれば雌になります。不思議なことにショウジョウバエは細胞ごとに雌雄を決めるため、雌雄が混在したショウジョウバエもつくることができます。またショウジョウバエにはsatori遺伝子という遺伝子があり、脳が雄になるか雌になるかこの遺伝子で決定しているとのこと。satori遺伝子を失った雄のショウジョウバエは、雌と同じく雄に求愛行動をするそうです。つまり、からだは雄でも心は雌・・・本当に不思議ですね。
 井上さんによると、性を決定する方法はその生物種によって全くさまざま。ヘビやワニなどのハ虫類の中には、産卵された場所の温度で性が決まるというような種もいるそうです。私たち哺乳類はどの種もXY型の一つの決定方法しかありませんが、魚類ではもっと柔軟で、日本のメダカと台湾のメダカで性決定の方法が違ったり、ホンソメワケベラのように群れの中で一番大きな魚が雄に変化するという方法もあります。

 さて、最初の三毛猫の話ですが、三毛猫の雄がいないのはなぜなのでしょう?雌では「2本あるX染色体の片方だけが働く」ため、どちらの X染色体が働くかによって茶の遺伝子が働く部分や黒の遺伝子が働く部分が出 来てまだらになるわけですが、雄ではもともとX染色体が1本で、「1つの遺伝 子だけが必ず働く」ためにまだらにならないのだそうです。今回のカフェでは、さまざまな生き物の性が決定されるしくみを見ることができました。

(文責:前川恵美子)